ワシントン・コンセンサス
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- Washington Consensus
国際経済研究所の研究員で国際経済学者のジョン・ウィリアムソンが、1989年に発表した論文の中で定式化した経済用語で、新古典派経済学の理論を共通の基盤として、1980年代を通じて先進国やIMF、世界銀行等の国際機関が、累積債務問題への取り組みにおいて「共通認識」として発展途上国へ勧告した政策の考え方。米財務省や国際機関、さらに著名なシンクタンクが米国の首都にあることから名付けられた。
1990年代、貿易の自由化が十分な成果を上げられない中で、開発途上国の開放の度合いが足りないことや腐敗等、主として開発途上国側の問題が原因とされ、資本市場の自由化が論議を呼び、貿易の自由化と資本市場の自由化を大きな構成要素とするワシントン・コンセンサスができあがった。ワシントン・コンセンサスは、市場原理を重視するが持続可能性には注意が払われていないため、資本市場の急速な自由化が、短期的・投機的なマネーの流入を招き、一時的には経済を成長させるものの、持続的な成長を意図しているわけではないため、ボリビアやポーランド等の成果はあるものの、かえって経済状況を悪化させたり、政権の不安定化など深刻な問題が発生する国々もあり、アジア通貨危機等を受け1990年代後半からこの政策の問題点が頻繁に指摘されるようになった。
IMFや世界銀行等の国際機関は、世界銀行のチーフエコノミストであったジョセフ・E・スティグリッツの批判を受けてワシントン・コンセンサスの問題点を修正しながら改善された「ポスト・ワシントン・コンセンサス」に基づき、開発途上諸国支援を続け一定の成果を修めてきている。
ワシントン・コンセンサスの主な政策
- 財政赤字の是正
- 補助金カットなど財政支出の変更
- 税制改革
- 金利の自由化
- 競争力ある為替レート
- 貿易の自由化
- 直接投資の受け入れ促進
- 国営企業の民営化
- 規制緩和
- 所有権法の確立
ポスト・ワシントン・コンセンサスの主な政策
- 貧困削減
- 健康面,教育,社会的な援助に関する政府支出を一定レベルに維持→貧困層を保護するためのコンディショナリティの策定。
- 健康や教育、水の利用に関して貧困層の利用促進(使用料の排除)。
- 経済政策
- 税の管理、予算赤字の調整を含む財政改革(fiscal reforms)
- 賃金安定化のための法律制定
- 労働市場の制度改革
- 国内の規制、公企業、金融セクター、社会セクターに関する改革
- 公的セクター改革
- ガバナンスや透明性の改善
- 競争促進政策の整備に関する役割の強化
- 金融セクター改革
- 金融機関の整備(規制と監督の強化)←金融仲介の自由化は後退
- 民間セクターの開発
- 規制の枠組みや競争政策の導入
- 雇用・貧困対策整備後の民営化
- 環境保護
- 農業、エネルギー、林業、工業等の環境に関する政策
ワシントン・コンセンサスとポスト・ワシントン・コンセンサスの違い
自由化・民営化等そのものが目的となっていたワシントン・コンセンサスの反省から、市場を重視しながらも、市場の失敗を認め、政府の適度な介入や制度的枠組みを重要視する「社会リベラリズム(社会自由主義)」の考えがどうにゅうされるようになった。