レギュレーションNMS
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- Regulation NMS
1997年の注文執行義務規則導入、2000年のデシマライゼーション(1/8ドル単位での表示から10進法気配表示への移行)という二つの大きな制度改革、1990年代に進んだ株式市場の電子化(市場機能を持つECNの出現)等、証券市場を取り巻く環境が変化する中、様々な面で綻びを見せていた全米市場システム(NMS)の枠組みを近代化し強化するための一連の規則のことで、2005年6月に採択され、2007年10月に完全導入された。
レギュレーションNMSは、ITSプランで規制されていたトレードスルーの禁止を強化するオーダー・プロテクション・ルール(Order Protection Rule)、オーダー・プロテクション・ルールの実効性を高めるためのアクセス・ルール(Access Rule)、気配表示における最小ティック・サイズを規定するサブ・ペニー・ルール(Sub-Penny Rule)、NMSプランにおける利益分配ルールの見直し等のマーケット・データ・ルール(Market Data Rule)の4つの柱からから成り、競争原理を確保しつつも、各市場をリンクすることで投資家保護を図るというNMSの理念自体は維持されているものの、短期投資家よりも長期投資家の利益を優先するというSECのスタンスが明確化されている(「一般的に短期投資家と長期投資家の間の利益が相反することはないものの、仮に衝突した場合には」という条件付き)。
非上場取引特権(UTP)制度により、元来流動性が分散し易い下地が形成されている中、レギュレーションNMSのオーダー・プロテクション・ルールや、それを補完するアクセス・ルールの導入によって、価格という一面的な情報だけに基づく厳格すぎる最良執行義務が導入された結果、たとえどんな小さな取引所であったとしても、他よりもほんの少しでも価格面で有利な気配を提示できれば、流動性を奪取できることが保証されるようになり、市場間競争がこれまで以上に激化した。それにより、NYSEによるアーカ取引所を併合やユーロネクストと経営統合、NASDAQによるOMXとの合併、ICEによるNYSEユーロネクスト買収等グローバルな取引所の再編を促されることとなり、現在の米国市場は、最大の単一取引所でも20%に満たないシェアしか有さないという過度な市場分裂の状況に陥いり、ダークプールをはじめとした取引所外取引が大きな存在感を放つ複雑な構造となった。
レギュレーションNMSの具体的内容
- オーダー・プロテクション・ルール
- トレードスルー規制の対象銘柄をNASDAQ登録銘柄を含むNMS株式にまで拡大
- 機関投資家の大口注文や個人投資家の小口注文もトレードスルー規制の対象に
- トレードスルー規制の保護気配から手動気配、非表示注文が除外
- アクセス・ルール
- ITSプランを廃止し、取引市場同士が個々に繋がるプライベート・リンケージ形式を採用
- 取引所による不当なアクセス制限の禁止(注文の執行面だけに着目した注文執行アクセス(Order Execution Access)のことで、メンバー・アクセス(Member Access)と呼ばれる取引所が提供する幅広いサービスまでを保証するものではない。)
- 取引所間で異なる取引手数料(アクセス・フィー)により最良執行義務の理念に反することとなることを防ぐための取引手数料の上限規制(オーダー・プロテクション・ルールでは、取引手数料を考慮せず気配価格のみに基づく最良執行義務が課されているため、実際のコスト(最良気配価格+取引手数料)が高い市場に注文が回送される虞があるため)
- 厳格なロックト・マーケット及びクロスト・マーケットの禁止(システム的な対応を含めた適切な体制整備の義務化、ただし手動気配は除外)
- サブ・ペニー・ルール
- サブ・ペニー単位(0.01ドル(1セント=1ペニー)よりも小さい単位)での気配表示の禁止(最小ティック・サイズ(Minimum Pricing Increment)の統一であり、それよりも大きいティック・サイズを採用は問題無い。また気配に係る規制であり、約定がサブ・ペニー単位になることは認められる。)
- マーケット・データ・ルール
- NMSプランの利益分配(貢献度に応じた利益分配ルールに変更)
- 直結データ・サービスの容認(NMSの理念を毀損しないよう、「取引所がプラン・プロセッサーに相場情報を提供するタイミング」よりも、「取引所がその独自の直結データ・サービスを通じて相場情報を提供するタイミング」の方が早くなってはならないとの制限は課されている)